今回は打消の助動詞「ず・じ・まじ」の3つをまとめていきたいと思います。
他の助動詞についてはこちらの記事でまとめてあります。
この講座の難易度は★★☆☆☆です。
「ず」
「ず」の活用形
まずは、「ず」から見ていきましょう!
「ず」は未然形接続の助動詞で、打消の意味を持っています。
ラ変型の「ざら・ざり」などの活用は、補助活用と言い、下に助動詞が接続する場合にこの活用形になります。
「ず」の用法
「ず」の意味は打消だけです。
- 打消
打消
「~ない・~ぬ」と訳します。
例:いろはかわらず(百人一首)
訳:色は変わらない
打消の「ず」と完了の「ぬ」の見分け方
打消の助動詞「ず」と完了の助動詞「ぬ」は、活用形が見た目だけでは判別できないパターンが2つあります。
- 打消の「ず」の連体形「ぬ」と完了の「ぬ」の終止形「ぬ」
- 打消の「ず」の已然形「ね」と完了の「ぬ」の命令形「ね」
この「ぬ」と「ね」の2つは、見た目だけでは打消の「ず」か完了の「ぬ」か見分けがつきません。
しかし、この2つの助動詞には決定的な違いがあります。
それは「助動詞の接続」です!
- 打消の「ず」…未然形接続
- 完了の「ぬ」…連用形接続
打消の「ず」は未然形接続の助動詞ですが、完了の「ぬ」は連用形接続の助動詞です。
この接続の違いで見分けていきましょう!
下に例文を示しておきますので、それぞれ確認してみてください。
・打消の「ず」の連体形「ぬ」
例:わかぬまに(百人一首)
訳:分からない間に
・完了の「ぬ」の終止形「ぬ」
例:駿河の国に至りぬ(伊勢物語)
訳:駿河の国に着いた
・打消の「ず」の已然形「ね」
例:あきにはあらねど(百人一首)
訳:秋ではないのだけれど
・完了の「ぬ」の命令形「ね」
例:とく帰り給ひね(枕草子)
訳:早くお帰り下さい
「ず」のまとめ
それでは、「ず」について学習したことを最後に簡単にまとめましょう。
「ず」は未然形接続の助動詞で意味は打消
完了の「ぬ」とは「接続の違い」で見分ける
意味 | 訳し方 |
打消 | ~ない ~ぬ |
「じ」
「じ」の活用形
「じ」は未然形接続の助動詞で、活用は無変化型なのでここを覚えるのは楽チンですね。
「じ」の用法
「じ」の意味は以下の2つです。
- 打消推量
- 打消意志
助動詞「む」の反対とも言えるのがこの「じ」です。
そのため、まだ「む」を勉強していない人はこちらを先に読んだ方がスムーズに内容が入るかもしれません。
この2つの助動詞は共通点が多いので、比較対照しながら覚えていくと良いでしょう。
打消推量
「~ないだろう・~まい」と訳します。
例:つゆをかしからじと思ふ(枕草子)
訳:少しも面白くないだろうと思う
識別の仕方は以前に別の記事で扱った「む・むず」と同じように主語の人称です。
主語が三人称や二人称・人以外の場合は「じ」も打消推量の意味が多いです。
打消意志
「~まい・~ないつもりだ」と訳します。
例:わすれじの(百人一首)
訳:決して忘れまいとすることは
こちらも「む・むず」と同じように、主語が一人称の場合の「じ」は打消意志の意味が多いです。
陳述の副詞+「じ」
助動詞「じ」は、陳述の副詞と呼ばれる以下の3つのようなものと合わせて使われることも多いので注意しておきましょう。
- つゆ・さらに(全く)
- え(不可能)
- よも(まさか)
ちなみに、現代語で「もし」と言ったら「~したら」と言うように、「たぶん」と言ったら「~だろう」と言うように、陳述の副詞は後から来る言葉と呼応して様々な意味を持つので、呼応の副詞とも言われます。
「じ」のまとめ
それでは、「じ」について学習したことを最後に簡単にまとめましょう。
「じ」は未然形接続の助動詞で意味は以下の2つ
意味 | 訳し方 | 判断基準 |
打消推量 | ~ないだろう ~まい | 主語が三人称 主語が二人称 主語が人以外 |
打消意志 | ~まい ~ないつもりだ | 主語が一人称 |
また、「じ」は陳述の副詞と合わせて使われることも多い
「まじ」
「まじ」の活用形
「まじ」は原則は終止形接続の助動詞ですが、ラ変型に活用する動詞や形容詞などには連体形接続になるので注意してください。
「まじ」の用法
「まじ」の意味は以下の5つです。
- 打消推量
- 打消意志
- 打消当然
- 不可能
- 禁止
なんとなく察している人も多いかもしれませんが、推量の助動詞「べし」と反対の関係と言えるのがこの「まじ」です。
「む」と「じ」の関係のように、こちらも比較対照しながら勉強していきましょう。
打消推量
「~ないだろう・~まい」と訳します。
「まじ」も「べし」と同じように「じ」よりも推量の確信度合いが強いです。
例:薬のほかはなくとも事かくまじ(徒然草)
訳:薬の他はなくても不自由しないだろう
識別の仕方は「べし」と同じように主語の人称です。
主語が三人称や人以外の場合は「まじ」も打消推量の意味が多いです。
打消意志
「~まい・~しないつもりだ」と訳します。
例:敵の手にはかかるまじ(平家物語)
訳:敵の手にはかからないつもりだ
こちらも「べし」と同じように、主語が一人称の場合の「まじ」は打消意志の意味が多いです。
打消当然
「~べきではない・~はずがない」と訳します。
「打消当然」は、場合によっては「不適当」と言われることもあるかもしれません。
例:男のもつまじきものなれ(徒然草)
訳:男が持つべきではないものである
「べし」と同じように、主語が二人称の場合は打消当然になることも多いですが、こちらも文脈によります。
どの訳が適切なのかは文脈に応じて考えていきましょう。
不可能
「~できない・~できそうもない」と訳します。
例:げにえ堪ふまじく泣い給ふ(源氏物語)
訳:本当に堪えることができないようにお泣きになる
例文のように「まじ」も「じ」と同じように陳述の副詞と合わせて使われることも多いです。
特に「え」は不可能を表す陳述の副詞なので、「え」と合わせて「まじ」が使われていたら不可能の意で訳すようにしましょう。
禁止
「~するな」と訳します。
例:おろかにもてなし給ふまじ(源氏物語)
訳:いい加減におもてなしなさってはいけません
禁止の「まじ」は命令の「べし」と同じように主語が二人称の場合に使われることが多いです。
打消当然も主語が二人称の場合に使われることが多いので、この区別は文脈に応じて考えていきましょう。
「まじ」のまとめ
それでは、「まじ」についてこれまで学習してきたことを最後に簡単にまとめましょう。
「まじ」は終止形(ラ変型は連体形)接続の助動詞で意味は以下の5つ
意味 | 訳し方 | 判断基準 |
打消推量 | ~ないだろう ~まい | 主語が三人称 主語が人以外 |
打消意志 | ~まい ~しないつもりだ | 主語が一人称 |
打消当然 | ~べきではない ~はずがない | 主語が二人称 |
不可能 | ~できない ~できそうもない | 陳述の副詞 「え」があるか |
禁止 | ~するな | 主語が二人称 |
また、「まじ」は陳述の副詞と合わせて使われることも多い
まとめ
今回は打消の助動詞「ず・じ・まじ」についてまとめてきました。
打消の「ず」はともかくとして、残りの「じ・まじ」は推量の助動詞「む・べし」と対応させて覚えていくことでスムーズに学習できます。
この関係性をしっかりと押さえて復習をしていきましょう。